【超入門編】
ハープ Harp です。 ハーブ Herb ではありません。
長いこと話をしているのに、いつまでたってもハーブという方がいらっしゃいます。
濁音「 ゙」ではなく半濁音「 ゚」のハープです。お間違いなく。
ハープ奏者のことは ハーピスト Harpist(英語) といいます。
ハープニスト とかおっしゃる方がいますが、ハーピストです。お間違いなく。
【初級編】
“ハープ”という楽器にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
フランス語でハープという単語は ”La Harpe” と女性名詞で表されるにふさわしく、華麗で優雅なイメージをお持ちかもしれないし、天使やお姫さま、人魚など神話にでてきそうな何か現実離れしたものを連想されるかもしれず、または、対照的に心の“琴線”という言葉があるように、吟遊詩人のかきならす竪琴であれば、人間の根源的なものに密接に関わりあってきた楽器とも捉えられるでしょう。
共鳴させる箱に弦を張ってそれを手ではじいて音を出す……人類が考えた最も古い楽器のひとつとして出発して、5000年近い歴史をくぐりぬけてきた楽器であるだけに、よく考えてみるとたかだか30年ばかりハープを弾いている私がハープについて何か書くということもおこがましい気さえしてしまいます。
一口にハープといってもコンサート・グランド・ハープから、小型のいわゆるアイリッシュハープの類、民族楽器に至ってはアフリカ・中南米・ビルマあたりまであり、歴史に関してもルーツや流れをたどるにはあまりに膨大になりすぎてしまうので、ここでは触れませんが、日本にも奈良時代、アッシリア・中国を経て堅箜篌渡来し、正倉院に一部残っていたことから、近年復元楽器の演奏が行われ、私も取り組んでおりますことを書き留めておきます。
現在一般にコンサートで用いるグランド・ハープは、高さ約1.8m、重さ約35kg、弦は通常47本で音域は7オクターブ、半音操作のためのペダル7本(各ペダル=の3段階式
)という構造になっています。19世紀はじめにフランス人のエラールによってこのようなダブルアクションペダル構造が完成されて近代から現在にかけて作品も沢山生まれ、奏法も確立されてきました。
いわゆるクラシック音楽の分野での「ハープ」は、18世紀後半に至るまではヘンデル「ハープ協奏曲」やモーツァルト「フルートとハープのための協奏曲」などいくつかの名曲が生まれた以外には、ほとんどクラブサンの代用という程度にしか考えられていなかったようです。ダブルアクションハープの完成によってようやくさまざまな音楽の変化に対応できる楽器となり、さらに“ハープ界のリスト”といわれたパリッシュ・アルバースという名手の出現でベルリオーズが「幻想交響曲」第2楽章に2台のハープを用い、新しいオーケストレーションの中にハープを位置づけました。
20世紀に入り、優れたハーピストたちが自ら作曲を行い、レパートリーを増やしていきますが、この頃からハープ音楽の伝統・教育の中心はフランス・パリにあり、今でもハープ界におけるフランス流派は主流と言っても過言でないと思います。パリコンセルヴァトワール・ハープ科の歴代教授、生徒からその枝葉が世界に広がりました。大作曲家による完成度の高いハープ作品、フォーレ「即興曲」「塔の中の王妃」、ラヴェル「序奏とアレグロ」といった傑作も数多く生まれました。その一時代前、マリー・アントワネットがハープを演奏したことによるハープの流行も、発展に拍車をかける要因となり、楽器製造の分野でも競って開発が進み、結局現在は廃れてしまった半音階ハープ(ペダル操作の不便さを解消するため弦数が多く弦が十字に交差している)という奇怪なハープのために、ドビュッシー「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」も生まれました。この作品は現在では通常のダブルアクションハープで演奏されています。
ハープ特有のグリッサンドやアルペジオなどの華やかで優美な奏法が花ひらいた後、前衛的現代音楽の分野では、ハープを詩的にも抽象的にも扱わず、楽器の可能性と演奏能力の対決にまで拡張した、ベリオ「セクエンツァU」(1960年)のような作品も誕生しました。
一方、「ひき潮」の作者で知られるロバート・マックスウェルに代表されるようなジャズ系&ポップス系ハープ奏者もアメリカを中心に数多く活躍しています。楽器についても、ピックアップマイクを内蔵したエレクトリックハープも各楽器メーカー製造するようになりました。
さてこの辺で、ハーピストの日常というものについてお話したいと思います。意外と細々とした雑用に満ちています。演奏前には47本の弦の調弦を自分で行います。弦はほとんどがガット弦(低音はスチール、高音はナイロン)なので、切れたり古くなっていると張り替えます。最近はガットの原料となる羊の腸も不足気味でコーティングの厚いものが多くなり、指の感触が自分にあったものはどのメーカーかなど細かいことにも気を使います。コンサートや演奏の依頼を受けると、会場までの楽器運搬の手配を前もってしておかねばなりません。ハープ専門の運搬業者がいくつかあって、ソフトケースに入れて一人で運んでくれる「ハープタクシー」みたいなところや、棺桶のようなハードケースに入れて二人以上で運んでくれるいわゆる「トランポさん」のようなところもあります。
演奏の段になると、新しい譜面を見て、まずペダル操作のための記号を書き込みます。右足で4本、左足で3本のペダルを各ペダル3段階()に踏み込む作業は、音楽的流れとはほとんど無関係の、事務的かつ計画的な作業です。どんなに簡単そうなフレーズでも、不用意に弾いてとんでもない間違いが簡単に起こりうる楽器であるので、酔った勢いでご機嫌で即興演奏…、といった状況には最も不向きな楽器と言えるでしょう…。
ハープという楽器は、楽器本来の持つ美しいフォルムと音色、そしてそのうち減衰してしまう響きのはかなさと、直接指で弦をはじくことから生まれる表現力、といった様々な素晴らしい点がある反面、演奏のしくみには、ピアノのような完成された楽器に比べると色々な制約や難しさがあり、そこにかえってハープのもつ魅力と夢が生まれるのかもしれません。
【サウルハープについて】
「竪琴」のイメージのこの可愛いハープは、日本のハープメーカAOYAMA HARP社製の「サウルハープ」という名称の小型ハープです。ペダルハープに対し、ペダルを持たないハープを総称して「ノンペダルハープ」「レバーハープ」などと呼びます。なかでもこの「サウルハープ」は弦数が25本と小型で、膝の上に乗せて演奏します。澄んだ音色ですが、意外と力強い迫力も出すことができ、小型ながら表現力があります。癒し系楽曲から、民族調楽曲まで、愛用しています。
「サウル」とはイスラエル初代王の名前で、ハープの名手ダビデを呼び、悪霊を追い払ったといわれています。 (「サウルハープ」はアオヤマハープの登録商標です。)
*中級、上級編もだんだんに書き加えたいと思います。ご質問やご希望がありましたら、メールにてお知らせください。 |